社労士から一言~不正受給は許されません~
この冬は各地で例年にない積雪を記録し、人的被害も出ているようです。
皆様のお住まいの地域ではいかがでしょうか? 加えて鳥インフルエンザの発生など、経済活動にも重大な影響を与えそうです。
このように閉塞感漂う経済状況の中、メルマガの読者の中にも雇用調整助成金(中小企業緊急雇用安定助成金)を受給されている事業所もおありになるかと思います。
雇用調整助成金は1981年に創設され、休業や教育訓練、出向などで従業員の雇用維持に努めた企業を支援する制度です。
2008年秋以降の景気悪化を受け同12月、申請要件を緩和したところ、中小企業を中心に申請が急増しました。
2008年度の支給総額は約68億円でしたが、2009年度はほぼ100倍で過去最高の約6537億円に達したとのことです。
ちなみに2010年12月の休業計画届受理事業所数は5万7761件、対象となる労働者数は99万6733人となっています。
ところが申請が増えるとともに不正受給も急増し、2009年度の不正受給は91事業所で計約7億355万円、2010年度にいたっては4月から7月だけで54事業所、10億7617万円にも達しています。
このように不正受給の件数が急増したのは、厚生労働省が、従業員の休業日数が不自然に多いなど不正申請の疑いがある事業所に対し、各都道府県の労働局が必ず調査に入るなど対策を強化したということもあるでしょう。
実際、不正防止対策の強化として去年4月からは
①休業等を実施した労働者に対して電話ヒアリングを実施。
②教育訓練に係る計画届について労働者別に実施予定日を記載することを義務付けるとともに、計画の範囲内で実施日数及び対象者数が減少する場合についても変更届の提出を義務付ける。
③教育訓練実施後の支給申請時に個々の労働者ごとに実施を証明する書類の提出を義務付けるという対策が取られました。
ついで7月からは第2弾として
①各都道府県労働局において、事業主が自ら実施する事業所内教育訓練の実施日数が多い事業所やある程度業務量があると推察されるのに休業の実施日数が多い事業所、休業等を実施する一方で合理的な理由なく雇用する労働者が増加している事業所に対しては実地調査を必ず実施する。
②厚生労働省において、都道府県労働局が行う立入検査のノウハウを収集・分析し、その成果を研修することにより不正受給の摘発を強化する、といった対策が取られてきました。
さらに11月からは不正受給を行った事業所については、事業主の名称、代表者氏名、事業所の名称所在地、概要、不正受給の金額、内容を公表することに踏み切り、申請用紙の様式も変更されました。
そして今年に入ってからは労働者に対して、勤務する事業所の不正行為等についての情報提供を呼びかける都道府県労働局が増えつつあります。
不正の手口としては実際には従業員が働いているのに「休業」と届け出たり、教育訓練をしていないのに「実施した」とするなどの虚偽申請が大部分でしょう。
このような事業所では残業代を適切に支払っていなかったり、助成金を受給する一方で従業員を解雇するなど、不適切な労務管理が行われていることが多く、労働者の不満がたまっているものです。
不正受給に関する都道府県労働局への情報提供はメールで簡単に行えます。
バレないと思っていても、従業員は会社の不正には敏感です。
実際にインターネットで「助成金、不正受給」と検索すれば驚くほどたくさん「勤務先の会社が雇用調整助成金を不正受給している。告発したい。」といった書き込みが見つかります。
不正が摘発された時には当然、受給済みの助成金は返還しなければなりません。
受給する時には1カ月単位でも、2年分を一度に返還するとなると相当高額になる場合もあるでしょう。
さらにその後3年間は雇用保険料を財源としたすべての助成金が受給できなくなります。
何より事業所名の公表等により、取引先や世間の信用失墜を招き、受注先を失うなど経営に大きな打撃を受けることにもなりかねません。
そもそも助成金は雇用保険の適用事業所が納付している雇用保険料を財源としています。
不正受給は自分で自分の首を絞めるようなものです。
決して許されるものではありません。
なお、今年4月以降の申請分から事業所内訓練の教育訓練費の支給額が引き下げられる予定になっていますので、申請をお考えの事業所はお近くの助成金デスクやハローワークへお問い合わせ下さい。
(特定社会保険労務士・行政書士 比良さやか)