2012年10月アーカイブ

個人事業と会社設立のメリット・デメリット【3】

201210税理士.png前回、事業規模が小さく、儲けも少ない場合は個人事業が手続き費用面や税率の面で有利で、事業規模が大きくなり儲けも大きくなると、手続き費用のデメリットより、税率面のメリットが上回るため法人が有利というようにまとめましたが、実際は取引規模や儲けが大きくなっていない場合まで会社化していることが多いとも申し上げました。

 

今回はこの理由を述べたいと思います。

理由①

個人事業は事業主に給料を払えませんが、会社は社長に給料を払うことができるという点です。個人事業を営む方が仮に課税所得が1,000万円あったと仮定すると、この方の所得税は約176万円になります。そして、この方が同じ事業を会社で行った場合は社長に給料を支払う前の所得は1,000万円ですが、社長に500万円の給料を支払えば、会社の所得は500万円で法人税は約83万円で、社長がもらう500万円に対しては所得税が約26万円となり、会社となって社長に給料を払った方が60万円以上税金が安くなるという結果になります。

このような結果となるのは、第一に、我が国所得税は累進課税の考え方で税率が決められているため、所得が高いほど税率が高く、所得が半分になれば、所得税額は半分を超えて少なくなり、他方法人税の税率は小規模な企業で所得が少ない場合低率なため、所得税の減額効果が法人税の増額効果を上回ることによります。これは所得の分散による効果ということができると思います。

 

理由②

給与で収入を得た場合は、給与収入から給与所得控除を差し引けるため、法人と社長または事業主とをトータルした場合の所得額は、給与所得控除がある分だけ法人が社長に給料を払う場合の方が安くなります

 

理由③

事業主または社長の家族がその事業で働いている場合、個人事業であっても会社であっても働いている家族に対して給料を払うことはできますが、個人事業の場合は、配偶者控除または扶養控除が受けられなくなるのに対し、会社であれば、給料の額が103万円を超えなければ、配偶者控除または扶養控除が受けられなくなることはありません。家族に払う給料が少額な小規模事業者の場合は、会社にした方が社長の所得税が安くなる場合が多いのです。

 

理由④

消費税の問題もあります。

消費税は、基準期間の課税売上高1,000万円以上の事業者に課税されます。基準期間とは、2期前のことになりますので、開業初年度と2年目または会社設立初年度と2年目は基準期間が存在しないため課税されません(開業または設立初年度の上半期に1000万円以上の売上があれば、2年目から消費税が課税されます)。このため、課税売上高が1,000万円を超えた個人事業者が課税される前に会社を設立して会社で事業を行うようになれば、会社になってからさらに2年消費税が課税されないということになります。

 

ここまで、取引規模や儲けが大きくなっていない場合まで会社化していることが多い理由、すなわち小規模事業者の「法人成り」の理由をみてきました。この理由を見る限り、「法人成り」をした方が良いように思えますが、どの方法が税金の上で有利になるかについては、具体的な計画に基づいて綿密に検討しなければ明確になりませんから、起業を検討されている方、または、すでに個人で開業されている方は、将来計画を策定して、具体的条件のもとに税金やその他のコストを検討されることをおすすめします

ただし、税金1つとっても、要検討事項は多岐にわたるため、開業準備や開業初期の貴重な時間を効率的に使っていただく意味で、かような検討は専門家にお任せいただくことをおすすめします。

 

前回、今回と、事業のもうけに対する税金の負担について見てきました。

次回は、本連載の冒頭で列挙した、「個人事業と会社設立の差」の3番目である「人を雇った時の社会保険や労働保険の負担」についてということになりますが、こちらは、本職の社会保険労務士にお願いすることとし、4番目の「銀行借入などの資金調達のしやすさ」について見ていきたいと思います。

(東京事務所所長 社員税理士 望月俊治)

 

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有期労働契約の新しいルールができました

社労士から一言~ 有期労働契約の新しいルールができました201210.png

先月は高年齢者雇用安定法を取り上げましたが、今年8月10日には「労働契約法の一部を改正する法律」が公布されています。今回は改正のポイントについてお知らせしたいと思います。 

今回の改正のポイントは次の3点です。 

1.無期労働契約への転換のルール(平成25年4月1日施行予定) 

同一の使用者との間で、有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換しなければならなくなります。

ただし、5年のカウントは施行日(平成25年4月1日予定)以後に開始する有期労働契約が対象であり、施行日以前にすでに開始している有期労働契約は5年のカウントに含めません。

無期転換の申込みができるのは、通算契約期間が5年を超える場合、その契約期間(つまり6年目に入った期間)の初日から末日までの間であり、申込みがされると使用者は申込みを承諾したものとみなされ、無期労働契約が成立することになります。実際に無期に転換されるのは、申込時の有期労働契約が終了する翌日からとなります。

ただし、有期労働契約と有期労働契約の間に空白期間が6ヶ月以上あるときは、その空白期間より前の有期労働契約は5年のカウントには含まれなくなります(クーリング)。また、無期労働契約の労働条件は、別段の定めがない限り、直前の有期労働契約と同一となります。

2.「雇止め法理」の法定化(平成24年8月10日施行済み)

これまで最高裁判決で確立されている雇止めに関する判例法理雇止め法理)が労働契約法の条文として加えられ、制定法化されました。すなわち以下の2つのうちいずれかに該当する場合であって、雇止めが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、雇止めが認められず、有期労働契約が締結または更新されたものとみなされることになります。
① 有期労働契約が反復更新されていることにより、その雇止めが無期労働契約の解雇と社会通念上同視できる状態となっている場合
② 有期労働契約の期間満了後の雇用継続につき、労働者の合理的期待が認められる場合

条文化されたルールが適用されるためには、労働者からの有期労働契約の更新の申込みが必要ですが、こうした申込みは、使用者による雇止めの意思表示に対して、「嫌です、困ります」と言うなど、労働者による何らかの反対の意思表示が使用者に伝わるものでもかまわないと解されます。

3.不合理な労働条件の禁止(平成25年4月1日施行予定)

有期契約労働者と無期契約労働者との間で、期間の定めがあることによる不合理な労働条件の相違を設けることを禁止するルールです。

対象となるのは賃金や労働時間等だけではなく、一切の労働条件であり、労働契約の内容となっている災害補償、服務規律、教育訓練、福利厚生等の待遇も含まれます。

労働条件の相違が不合理と認められるかどうかは①職務の内容(業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度)、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情、を考慮して、個々の労働条件ごとに判断されます。

これによって、同じ仕事をしている正社員と有期契約労働者の間で、通勤手当の支給や食堂の利用などについて労働条件を相違させることは、特段の理由がない限り認められない可能性が出てきました。

今回の改正は雇用期間が定められ不安定な状態におかれているパート労働者などの有期契約労働者の雇用の安定をはかるためのものですが、企業側にはすでに、それまで更新し続けていた有期契約を現状で4年を超える労働者に対しては更新しない旨を通知するなどの動きも出てきているようです。改正によって、今後の有期労働契約がどのような形に変化していくのか、本当に雇用の安定化につながるのか等、注視していく必要かあります。

(特定社会保険労務士・行政書士 比良さやか)

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