2011年6月アーカイブ

通勤災害について

社労士から一言~通勤災害について~

 

この春新卒の社員を採用された事業所はそろそろ2カ月が過ぎ、社員も仕事に慣れてきた頃でしょうか。

ところで事業主の皆さんは、社員の通勤経路をきちんと把握しておられるでしょうか?通勤手当の額を算出するために通勤経路を把握しておくのは必要最低限のことですが、その他にも「通勤災害」に備えるという大切な意味があります。

先日、顧問先からこんな電話がかかってきました。「新入社員が通勤途中に事故に遭ったようだがどうしたらいいでしょう?」 と。さっそく事務所を訪問して詳しい事情を聞いたところ、数日前、新入社員から「バイクで通勤の途中、幅寄せしてきた車を避けようとして転倒し、頭部を 打ったので病院に行く。」との電話があり、その日は欠勤したとのこと。幸いその翌日からは出勤しているとのことなので本人から事情聴取をすることにしまし た。

この場合確認すべきポイントがいくつかあります。まず、転倒事故が起きた場所と時間が客観的に見て通勤途上といえるかどうかということです。

労働者災害補償保険法では「通勤」は「労働者が、就業に関し、①住居と就業の場所との間の往復、②厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動、③住居と就業の場所との間の往復に先行し、又は後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る)(いわゆる単身赴任者の赴任先と帰省先間の移動のことです。)を、 合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする」と定義されています。通勤経路を逸脱したり、中断した場合は一部の 場合を除いて「通勤」とは認められません。このため社員の通勤経路や通勤手段をきちんと把握しておく必要があるのです。また「通勤災害」とは「労働者の通 勤による負傷、疾病、障害または死亡」をいい、「通勤による」とは、「通勤に通常伴う危険が具体化したこと」を指します。出勤退勤途中の負傷等がすべて通 勤災害になるわけではないということです。

こ れらを踏まえ、彼の住居と事業所の位置関係から判断して通常考えられる経路上なのか、時間帯に不自然な点はないかを確認していきます。通勤途上の交通事故 や、駅の階段から転落した場合などに伴う負傷等は「通勤に通常伴う危険」が具体化したものとして通勤災害と認められますので、バイクの転倒による負傷なら 通勤災害ということになるでしょう。ただ、注意しなければならないのは「車に幅寄せされた」という点です。接触して転倒したのであれば第三者の行為による 災害ということになり、相手方車両の保険との調整が行われることになり、手続が違ってくるからです。

実 は今回は結果的に通勤災害の手続をとることはしませんでした。というのも事故の状況について詳しく事情を聞いていたのですが、事故後に受診した病院につい て確認を始めたところ雲行きが怪しくなってきたのです。「実は病院には行っていない」と。どうやら遅刻の言い訳に転倒して病院に行ったということにしたよ うですが、高校を卒業したばかりの新入社員には「労災事故」ということが会社にとって(特に中小事業所にとっては)どれほど大ごとかということがわかっていなかったのでしょう。

よく労災保険を使うと保険料が上がると勘違いしておられる事業主がおられます。最初に電話をいただいた時、事業主さんが「どうしたらいいですか?」と聞かれたのもそれを心配してのことでした。しかし、メリット制の適用を受けている事業所以外は労災保険を使ったからといって保険料率が上がったりはしません(もちちん業務災害の発生原因について監督官庁の調査や指導が入ることはありますし刑事や民事責任を問われることもあります。)。またそもそも通勤災害の場合は事業主に責任はありません。業務災害の場合はもちろん通勤災害が発生した場合も速やかに手続きをすすめることが重要です。

(特定社会保険労務士 比良さやか)

 

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