社労士から一言~うつ病などの精神障害の労災認定基準が新しくなりました
近年、職場においてうつ病などを理由とする休職者が増加しており、それに伴い精神障害を理由とする労災請求もまた大幅に増加、認定の審査には8.6ヶ月を要しています。そのため、審査の迅速化が求められていましたが、厚生労働省では「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」を新たに定め、平成23年12月26日付けで発表されました。
【新しい認定基準のポイント】
① 分かりやすい心理的負荷評価表(ストレスの強度の評価表)を定めた。
② いじめやセクシュアルハラスメントのように出来事が繰り返されるものについては、その開始時からのすべての行為を対象として心理的負荷を評価することにした。(以前は例外なく発症前おおむね6ヶ月以内の出来事で評価)
③ これまですべての事案について必要としていた精神科医の合議による判定を、判断が難しい事案のみに限定した。
厚生労働省では、今後はこの基準に基づいて審査の迅速化を図り、精神障害の労災請求事案について6ヶ月以内の決定を目指すとともに、分かりやすくなった新基準を周知することにより、業務によって精神障害を発病した人の認定の促進も図っていくとしています。
ところで昨年11月に労災に関連して興味深い判決が出されました。過労死などにより従業員が労災認定を受けた企業の名称を公開しないとした大阪労働局の決定の適否が争われた行政訴訟において、大阪地裁が労働局の決定を取り消す判決を下したのです。
同地裁は、「企業名を公開したとしても、社員のプライバシーや企業の信用を失うおそれはなく、不開示は違法である」と判断しました。
労働局側は、「労災を発生させたことを広く知られるのを恐れた企業側が、就労実態調査に協力的でなくなる」としていましたが、その主張は退けられました。
原告側代理人の弁護団は、企業名の情報開示を認めた判決は初めてであり、「企業側が社会的監視にさらされることにより、過労死をなくす努力をより強く求められることになる。健康管理態勢の改善につながる画期的な判決である」として、高く評価しています。
今後、長時間労働はもとよりセクハラ、パワハラの訴えに対する対応を誤り社員がうつ病などの精神障害を発症した場合など、ますます労災認定が増加するとと もに、企業名の公開などにより企業の社会的評価を下げる事態に発展することも起こりうるということに留意しなければなりません。
(特定社会保険労務士・行政書士 比良さやか)